洋古書 マルティ挿絵 『ダフニスとクロエの田園恋物語』Ⅱ

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Marc-Charles-Gabriel Gleyre (1806-1874)
「Daphnis Et Chloe Revenant De La Montagne」

最後の絵画は
Pierre-Auguste Cot (1837-1883)「The Storm」(1880)
ダフニスとクロエに着想を得て、描いたと言われる。
クロエのピンクの乳首が素晴らしい。
もしクロエがこれほどの美貌であったならば、
ドルコーンがクロエを欲したという訳も良く判る。

人は何一つ変わっていない。これを読めばよく判る。
松平千秋訳「ダフニスとクロエー」(岩波文庫)から抜粋。
「あの人の笛になって、あの人の息を吸えたらどんなにいいだろう。」
(Ah ! que ne suis-je sa flute, pour toucher ses levres !)[原文]
「それとも山羊になって、あの人に飼ってもらえたら・・・。」
(Que ne suis-je son petit chevreau, pour qu'il me prenne dans ses bras !)[原文]

ドルコーンはクロエに惚れる。クロエを物にする為に、二人に近づく。
勿論、目当てはクロエのみだが、クロエだけに贈り物をする訳にはいかない。
だからダフニスにも贈り物はするが、当然ダフニスは段々手抜きをしていく。
クロエは贈り物を貰って嬉しがるが、
それはドルコーンの行為だけが嬉しかったのではない。
クロエにとって、”ダフニスに贈る”物が手に入ったから、余計に喜んだのである。

ダフニスに嫉妬したドルコーンはこんな事を言う。
「俺はダフニスよりも背が高いし、俺は(ステータスの高い)牛飼いだが、
こいつは、ただの山羊使い、それに犬も飼えない程貧乏だ。
だから、こんな男とくっついてないで、俺の女になれ、嫁になれ。」
しまいには、ドルコーンはクロエを力づくで、ものにしようと企む。
これは世界のどこでも、いつの時代でも起こっている事だ。
何一つ人間は変わらないし、変われないものだ。

*最後の写真=本の箱を自作してみた。

栃折久美子著「モロッコ革の本」(抜粋)にはこういう記述がある。
「本のケースを、大きすぎず、かといって振っても出てこないなどということが
ないようにつくることがどんなにむずかしいか。一点制作のルリユールより
はるかに許容範囲が広い量産本の場合でも、ちょうどいい大きさのケースは
めったに見られないほどだ。これまでにしてきたブック・デザインの仕事を
通して、このことを身をもって知っている。先生がケースを背に下にして机の上に立て、
口元に本を持って手を放すと、本は何秒かかかって静かに入ってゆき、最後に
ことりと音を立ててケースの中に収まった。それを手に持つと、斜めに傾けるだけで
本が出てくる。その仕事の厳密さ、精度さに私は驚嘆した。」

私はフランスの装丁を知るまで、本の箱というのは、堅くて、揺すっても
なかなか出てこないのが普通だと思っていた。それは大きな間違いであった。
栃折久美子が書いているように、一点制作のルリユールの箱というのは
そっと静かに出、静かにそっと入っていく。
それは見ていても飽きないほど素晴らしい。まるで魔法の様だ。
それをフランスでルリユールされた、(箱付きの)挿絵本を買い、
実際に手にとって初めて判ったことであった。
それまで本の箱というのは、窮屈なのが普通だと思っていた。
日本の製本は本当に酷い。特に箱が酷い。
まあ工業製品、ただの大量生産品、
機械製本でしかないので、そこまで求めるのは所詮無理か。
日本の機械製本にたずさわる人は、本物の箱を見たことがあるのだろうか?
まるでフランス料理を見た事もない、食べたことない奴が
フランス料理を作るようなもの。
それで本物の本の箱が作れるはずもないではないか。

今回、私が自作した箱は、(きつくなく、ゆるくなく)
そっと入り、そっと出る箱である。(設計には時間を要した)
内張には革を傷つけない様に、フェルトを貼った。
またフランスのルリユールの箱に習い、
入り口は狭く作り、言わば卵型みたいな形状にしてある。
日本の箱は、本を保護するどころか、逆に本を傷つける。
それほど日本の本の箱は固く、きつい。
日本の箱は、(栃折久美子が言った、30年以上前から)何一つ進歩もなく、
悪い点を改良もせず、何の努力も知恵も無く、問題を放棄したままだ。
まあ、機械製本なので、それが限界なのだろうか。
(それに、確かにコストは大きな問題だろう)
しかし、それでは本への愛情は全く感じられない。
本を愛しない者が本を作る。是ほど悲しいものはないだろう。
日本の悪い点として、非適材適所がある。(旧日本軍の例がもっともだ)