
復讐は屍を超えて
軍犬ローマ号と共に
ビルマ狼兵団一兵士の戦い
志摩 不二雄著
2006年11月17日発行
光人社NF文庫
戦争末期、古年兵による激しい殴打の中、
「私怨」を晴らすことと、「生還」への
執念に燃えたビルマ戦線一兵士の戦争。
つねに自らの側にあって、献身、忠実な
軍犬ローマ号を先導にして、
冷酷非情な戦野から、友軍部隊を求めての
74時間の逃走記。敵中、一人とり残された
兵士の孤独と軍犬への絶大な信頼と情愛を綴る。
目次
まえがき
ビンタに泣く
第三班は機関銃班である
輸送船轟沈
部下の責任負い自殺
生きた肉体にうじ虫
街道あらし
キャウタン空爆(師団副官の死)
転進は惨たる敗北だ
遺恨3年思い知れ
非情の死体
再び惨殺体
脱走兵と女
女体地獄
血祭り土民兵
抵抗する奴は殺せ
私は人間を刺殺した
首斬り惨殺
女体逢着
ようやく軍犬隊に帰属
ローマ号の死
あとがき
(本書紹介文より)
弾は前から飛んでくるとは限らないという言葉がある。
本書は兵士が上官達から過酷で陰険で理不尽なシゴキを受け、
その私怨を晴らす為、復讐の為に兵士生活、戦場を
軍犬ローマ号と共に彷徨する壮絶な戦記である。
もう戦争体験記というよりも、大藪春彦、馳星周、新堂冬樹
みたいなノワールさがある。ww2の戦場の日本兵、手榴弾
という事で馳星周の「美ら海、血の海」という作品を
思い浮かべた。この作品も敵兵との戦闘よりも同じ日本兵
との軋轢を描いたものでもある。もう戦争どころではなく
同じ仲間であるはずの日本兵同士が憎み合い、互いに不信感を
抱くのである。そんな事では勝てる戦争であったとしても
負けて当然である。
著者は復員後教師になり、執筆活動をしたりしている。
著者は所謂青白きインテリ等ではなく
武闘派な面がある事が序盤で判る。
ノンフィクションということで自分の体験を元に
構成をしたのかと思われる。
完全な架空の空想上の出来事ではないような気がする。
しかし本書は検索しても情報が出てこない為に詳細不明。
巻頭には兵隊姿の著者の白黒写真がある。
ここまで綺麗事ではない戦記を書き、刊行した例は知らない。
著者は本書では船尾という名称だが、著者は上官達から
執拗に過剰な殴打を受け、それからというもの、
その上官達を殺すという事を行動の糧にして生きる事になる。
もう戦争どころではない。著者の私怨を晴らす、
復讐を遂げる物語と化した。
本書の目次を見ればわかるが、これだけを見ても
ただの戦記じゃない事は一目瞭然である。
本書の中盤辺りから、著者は所属部隊からはぐれ、
所属部隊に追い着こうと戦場を軍犬ローマ号と彷徨する事になる。
そんな著者の心にあるのは死んでたまるか、私怨を晴らす、
復讐してやるという気持ちだけであり、自分をシゴいた上官達を
殺すという意思だけで動いていた。
そんな時、著者は脱走兵らしい兵士3人と会う。
もうのっけから命令口調で傲慢さにあふれた態度で、
食料をくれ、水をくれと要求してきて著者はとても気を悪くし、
不快になる。
それから著者とその3人の脱走兵は行動を共にする。
ビルマのジャングルで土匪と思われるビルマ人の女と遭遇し、
脱走兵3人は女を脅し順番で性行為をするが、著者はやらない。
著者は脱走兵3人にその女は日本兵を惨殺した土匪の一味なので
女を殺す事を告げる。しかし脱走兵3人には不服で、
邪魔を入った為に今は女を殺す事は辞めて、現地人の衣服を
奪う事を主張し女に案内させ、ビルマ人の女、著者、脱走兵3人は
ジャングルの中を歩き続ける。
その途中ビルマ人の女を独り占めし性行為をした脱走兵の上官への
嫉妬、諍い、土匪との戦闘等がある。
やがて現地人の小屋を発見したが、著者は排泄する為、
そこを離れた時、別の現地人の土匪が現れ、
(著者が隠れて見ている前で)3人の脱走兵を銃撃したり蛮刀で惨殺、
斬首までする。ビルマ人の女は現地人の土匪に駆け寄り、
今度は女が拳銃で3人の脱走兵の死体を撃ち始めた。
そんな様子を見ていた著者は仲たがいばかりしていた
脱走兵3人に哀憐の情が沸き、憎悪と憤怒の激情に囚われ、
土匪5人へ手榴弾を投げ土匪5人は死ぬ。
現地人の小屋から開襟シャツ3枚、食料、水を持ち出し、雑嚢に入れ、
軍犬ローマ号と共に所属部隊へ追い着くべく、
ジャングルを再び彷徨する。
そこへ年は15~16歳の少女のような、あどけさがありながらも
胸から腰までは悩ましいほどの色香がある、若い女と著者は出会う。
そこで「シャツ 交換」と女が言うので開襟シャツ1枚とバナナを
交換したら「有難う。マスター」と若い女が顔をほころばせ、
その顔が可愛いらしく顔、胸のふくらみを見ているうちに下腹部に
興奮を覚えた著者はまた開襟シャツ1枚でその若い女と性行為をする。
その女と別れ、その後自分の所属する、軍犬隊へ復帰する事が出来たが
著者を冷酷非情にも見捨てた、上官の分隊長は相変わらず
無能で臆病で横柄で傲慢であった。著者はこの分隊長に殴られ、
殺意が目覚めたが耐えた。行動を共にした軍犬ローマ号が死に、
やがて8月15日になり敗戦。
著者は最後にはこんな事を書いている。
美しい戦友愛なんて映画や小説の事であって
私は一度も経験した事がなく見た事も聞いた事もなかったと。
とても読みやすく話も面白い為に短時間で読了した。
綺麗事だけじゃない戦記を読みたい方にお薦めしたい。
ただどこまでが本当でどこをどう盛ったのかは判らない。
色んな戦記があるが、偉い人やエリートの自慢話や戦闘機乗りや
特攻隊の話等の美化されたものは読みたくはなく、脚色もなく
事実そのままの戦記が読みたい。下級兵士とかの組織の末端で
戦史には出ない、歴史に埋もれた無名兵士等の物語が読みたい。
本書の古兵がよく言う、また21世紀になっても体育会系が言う、
また巷でよく聞かれる、気合(或いはあるいは弛んでいる等の)
という言葉が嫌い。
気合でどうにかなるなら、日本は戦勝国になっているし
薬も医者も要らないし、病気になる人、病死する人等いないはずだし、
怪我したり怪我で死ぬ人もいないはず。
無駄で意味が無い精神論や精神主義がとても嫌い。
論理的に考えて欲しい。80年以上前の戦中と何も変わってない。