読書 野村悠里『書物と製本術』(みすず書房)

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書物と製本術 ルリユール/綴じの文化史

著者 野村悠里
定価 8250円
発行日 2017年2月24日

https://www.msz.co.jp/book/detail/08565/

本の文化をどのように継承するのか? 
一枚の紙が折丁となり綴じられていく工程-
ルリユールの源流を辿り、最も装飾が洗練されていた時代の
職人の世界を分析する。書物とは何か? 本をつくる場所から
その根本を問う、工房からの書物史。本書が主たる考察対象
とするのは、活版印刷が成熟して書物の生産が盛んになり、
装幀技術が定着した17、18世紀における本づくりの世界である。
この時期こそ技巧を凝らし円熟を見せた、
きわめて質の高い製本術が発展し、今なおその歴史の中での
頂点とも言える技が開発された時期である。
この本は、特定のある時期の限られた技術・文化の話
としてではなく、正に出版史的出来事が大きく変容している
今の時代にこそ、私たちに働きかける内容となっている。
20世紀までのフランスでは、「仮綴じ」と「製本」という
特有のかたちが根付き、読者は書店で購入した仮綴じを、
製本職人に製本依頼していた。
本書では、このフランス装の読書文化の源流を、
17世紀の王権統制にまで遡って考察する。
一般に装幀というとデザイン面が取り上げられることが多いが、
本書の特徴は、製本術の技術者としてルリユール(手かがり製本)
に携わってきた著者自身が、これまで考察対象として
あまり注視されてこなかった本の内部構造、「本の綴じ」に
着眼し、分析するところにある。
出版文化、書物史、装幀・造本に関心の強い人に向けた一書。

https://www.u-tokyo.ac.jp/biblioplaza/ja/C_00070.html

第39回日本出版学会賞 (2017年度)
【奨励賞】

野村悠里 著
『書物と製本術:ルリユール/綴じの文化史』
みすず書房

[審査結果]
 本書は、平成25年に東京大学大学院人文社会系研究科へ
提出された博士論文をもとにまとめられたものである。
フランスにおけるアンシャン・レジーム期、出版が
国王の統制下にあった時期の中でも、とりわけ17、18世紀の製本職人
(relieur)の「綴じ製本」ルリユール(reliure)の“技術”に、
特に焦点を当てておこなわれた研究成果をまとめたものである。
ア・ラ・グレックやヴレ・ネール、フォー・ネールなど、
為政者により規程された製本(綴じ)手法の技術的特徴、
製本工程や製本構造の変容過程、さらには、同時期の他の手工業者と
の関係性などが詳細に論じられ興味深い。しかしそれにとどまる
ことなく、逆に技術的変遷が共同体に与えた影響をもとらえてゆく、
文化資源学的視点がしっかりと意識されている。国王の庇護下にあった
製本技術およびその職人たちの共同体が、革命という“民主化”を
契機に衰退してゆく様子が、技術をもった共同体やその技術
そのものの変化から抑制的に論じられている。製本という技術に定点を
置き、多数の文献等を丹念に収集・参照して調査・検討を重ねており、
技術史、文化史としての学術史料的価値が高い優れた著作である。

[受賞のことば]
野村悠里
この度は,拙著『書物と製本術――ルリユール/綴じの文化史』
みすず書房,2017年)に対して,第39回日本出版学会賞奨励賞
という歴史と伝統のある賞を賜り,大変光栄に存じます.
日本出版学会関係者の方々に深く御礼申し上げます.
本書は,金箔押しの技術が高度に発達したフランスの装幀の歴史を
取り上げております.二十世紀前半に至るまで,パリの書店では
仮綴本が販売され,読者は好みに応じて製本工房に注文し,
革装本に仕立て直すことが行われておりました.製本職人は
ロッコ革や仔牛革で表紙を包み,箔押し職人は金箔で模様を装飾し,
背表紙にタイトルを刻印します.本書は,フランスの伝統工芸製本
として知られるルリユールを,そのルーツとなったアンシャン・レジーム
期の王権の出版統制に遡って分析しています.
 私はこれまで,ルリユールというフランスの読書文化について,
製本職人の「綴じ」の技術を中心に研究を続けてまいりました.
研究の過程は,あたかも三百年前の暦を抱えて,パリの製本職人の
工房を一軒一軒たどるようなものでした.十八世紀には王権の
出版統制のもと,製本工房の開業地域はセーヌ河左岸の大学周辺に
定められておりました.本書『書物と製本術』では,ソルボンヌ広場で
開業し,ルイ十五世の王室製本師となったパドゥルー家という一族の
五世代にわたる工房の継承を取り上げております.
調査の過程では,王室製本師パドゥルーの創作した装幀を検証する機会を
得て,その本づくりの情熱の一端に触れることができました.
また,フランス革命を前にして,発禁本を販売する行商人へと転落
していく一族のドラマチックな物語を目の当たりにいたしました.
 長い時を経て現代も,出版や読書の文化を次の世代へ伝え,
継承していこうという情熱は変わらないような気がいたします.
今回の受賞作となりました『書物と製本術』も,
出版社みすず書房の編集者,制作者,営業部の皆様の本づくりの情熱の
おかげで,多くの読者に届けることができました.今後とも,
読書の愉しみや本の魅力を伝えられるよう,尽力していきたいと
考えております.最後になりましたが,このような貴重な機会を
頂きましたことを,心より感謝申し上げます.

http://www.shuppan.jp/jyusho/997-392017.html

本書は17、18世紀の製本や製本職人について詳しく書かれた本で
よく調べあげて書かれている。欲を言うならば、19世紀までを網羅し、
取り上げて欲しかったと思う。上記の本書の説明にあるように、
フランスの装丁、製本、書物史に関心、興味がある人向けの本。
もし興味や関心があるのなら一読をお奨めたい。
本書で題材になるようなフランスの古書は昔ながらの製本で作られている。
実際に手にとって見たことがない人にはもし本書を読んだと仮定しても
ピンとこないはずである。やはり実際にフランスの古書を手にとって
自分の目で見るべきであり、より理解が深まるものだと思う。
それほど今の日本で出版、刊行されている本とはまるで違っている。

フランスの古書はフランス本国だけではなく、フランス以外の
欧州やUKやアメリカなどでも高い評価を受けている。

French Books
(記事投稿時には視聴可能)
https://youtu.be/Yw-WF744VAg

時代の流れにより、昔よりは数が少なくなったとは言え、
21世紀の今でもフランスでは昔ながらの製本、装丁が行われている。

La reliure artisanale :
portrait de la derniere relieuse en Meuse
(記事投稿時には視聴可能)
https://youtu.be/ht3b3SAQPBk

RELIURE D'ART
(記事投稿時には視聴可能)
https://youtu.be/fs6fYYpIfw4

A la rencontre de... Nathalie Lemaitre,
Relieur Meilleur Ouvrier de France a Paris
(記事投稿時には視聴可能)
https://youtu.be/xpCDbDiwAGI

Un Pere un Fils un Savoir - Atelier de Reliure
& Dorure Strasbourg France
(記事投稿時には視聴可能)
https://youtu.be/DlE_0WdUosQ

Atelier M Reliure
(記事投稿時には視聴可能)
https://youtu.be/O4YAR4UZAwA

21世紀の今、電子書籍とこのような紙の本が混在している時代。
書物の未来は現時点では判らないが、すぐには紙の本は
駆逐されないであろう。
本をただ情報のみを得る目的だけでは電子書籍が有効だろうが、
もし本が情報のみ以外での存在理由を考えるならば、
フランスの古書に見られるような物理的な芸術性もが
存在理由の一つになるだろうと思う。

Octave Uzanne - La francaise du siecle
- Reliure Magnin - Illustrations Lynch
(記事投稿時には視聴可能)
https://youtu.be/6ANToKIxdpg