古書 黒岩涙香著(翻案)『人耶鬼耶』80冊目

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今回、紹介するのは、黒岩涙香著(翻案)『人耶鬼耶』である。
フランスの作家ガボリオ「ルルージュ事件」の翻案。
黒岩涙香は明治のジャーナリストであり、名翻訳家。
彼は自ら刊行する新聞紙「万朝報」に海外小説、
主に探偵小説を翻案し、連載した。

この「人耶鬼耶」は元は貸本屋の物で、
発行元の大川屋とは、貸本屋向けの廉価な本を出版していた。
私が持っているのは、明治三十八年(1905)七月廿日十五版。
(今から丁度百年前である)

表紙は石版画で、中の挿絵は木版。
貸本屋が表紙を保護する為に、
手製の表紙を付けてある。
その為に石版画表紙は綺麗なままである。
当時の貸本屋の料金表が貼り付けて有る。
本は食費に比べれば、庶民にとり、高額だったので、
貸本屋で借りて読んでいた。
今でもビデオやDVD等で映画を見る場合は
大抵の人はレンタルするという人が多いのではないだろうか。
それと同様に、昔は貸本屋はどこにでも有り、
生活に密着していたのである。

*フランスは小説が盛んで、また新聞に小説が
 連載され、その為、発行部数を伸ばしていた。
 黒岩涙香はフランスの小説を相当数、翻案している。
 『人耶鬼耶』の表紙は大変意味が有る様に思える。
 これは「人物の影」が「鬼の角」を模し、
 比喩的に、『人耶鬼耶』を表わしている。
 この事を今まで指摘した事例は無い様に思う。
  (もっと明治期における石版画の研究が進んでも良いと思うのだが)
 当時の、このような粋な構図は、今は見られない。
 今の出版は商業主義で、兎に角売れれば
 良いという感じになり、 こんな粋な精神は失われた。