60秒の煉獄(光文社文庫) 2010年7月刊行
「あなたに特別な力を授けます」。
天使か悪魔か―謎めいた美少女が
人々に授けたのは、たった1度だけ時間を
1分間止める能力だった。
世界のすべてが静止する60秒。
誰にも知られず、邪魔されることもなく、
思うがままにどんなことでもできるのだ。
大金を強奪する。憧れの女性を恣にする。
憎い男を抹殺する…。
欲望と妄念に翻弄される男女の姿を描く、
異色連作集。
(60秒の煉獄紹介文より抜粋)
大石圭の小説の「エクスワイフ」を読んで、
今度は大石圭の「60秒の煉獄」を読んでみた。
この連作の短編集でほっこりしたのは
脳死した妻の1分抱きしめるために夫が60秒時を止める話。
それに離婚してわが娘と会えなくなった女がその娘に
サイズがちゃんと合ったセーターを編むために60秒時間を
止める話。他は純粋な悪意の話ばかりだった。
人の中には確か悪意しかない、または悪意しか感情無くなった人も
いるのはわかるが、架空の小説の話とはいえ酷い話ばかり。
この持ち味も大石圭しか書けないとは思う。
しかし金のために時を止める人がいないのは意外だった。
風呂敷を広げたままでその後は読者の想像に任せます的な話が多く
どうせ書くなら、最後まで書いて欲しいとは思った。
やはり大石圭は短編向きの作家ではなく長編向きの作家だと思う。
ただ、この作品集は映画化にはとても向いていると思う。
この頃の大石圭の作品の傾向は今みたいにSMや官能小説の話だけ
じゃない時期で今のように何が何でもエロい描写は大人の事情で入れます、
入れさせてくださいねみたいな感じではないのがよくわかる。