洋古書 アラステア挿絵 『サロメ』(1922)237冊目

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今回はオスカー・ワイルド著アラステア挿絵『サロメ』を紹介する。
Paris, Les Editions G. Cres et Cieから1922年刊行。
(1922年が刊行初年)
背モロッコ革装。duodecimo.天金。極美本。
(遅くとも1930年代までに装丁されたと思われる)
装飾紙とモロッコ革が見事な調和を見せている。
背の部分がデコ調で美しい。
洋書には珍しい事に、本書には栞(Signet)が付属している。
装丁を依頼する場合、栞までは頼まない事が多い為、
栞まで付属している、洋古書を見る事はそうは多くない。
写真では判りにくいが、本書に付属している栞は、
赤色のグラディーションになっている。
(フランス古書においては、様々な色合いの栞を見る事が有る)

パリ滞在中に、『サロメ』はフランス語で書かれたが、
(ワイルドはフランス語が母国語では無い為に)
比較的簡単な、フランス語で書かれている。
フランス語を学ぶ為のテキストとして使用される事は無いが、
フランス語の初心者であっても、読みこなす事は充分可能である。

サロメ』は、ビアズリーによる挿絵が(有名過ぎる程に)有名であるが、
このアラステアの挿絵の方が私は好きである。
アラステアは多くの挿絵を描いたが、このサロメが一番有名だろう。
それにしても、極めて独特な画風である。
アラステアの挿絵はとても現代的であり、
斬新であり、古さは全く感じられない。
アラステア(Baron Hans Henning von Voigt 1887-1969)という人物に
私はとても興味を持った。きっとセンスが良い人物だったのだろう。
TVや雑誌等もビアズリーばかりを取り上げるが、
アラステアも取り上げて欲しいものだ。
(しかし期待するだけ徒労かも知れない)

アラステアのサロメ(或いはビアズリーサロメ)は怖すぎる。
美しいとはとても思えないし、そこまで男を虜にしそうにもない。
虫も殺せそうにも無い、純真かつ健気で、美しく可愛らしい娘に
描いた方が(より一層残酷さ、無残さを引き立ち)凄みが増すだろう。
アラステアは1920年代に描かれた、退廃的な絵という事で、
これを高く評価したい。
オシャレで洗練されており、現代に通じる絵柄である。

アラステアの挿絵もインパクトがあるが、
この物語自体も大変インパクトがある。
特にラストシーンは圧巻である。
福田恒存訳『サロメ』(岩波文庫)から抜粋。

サロメの声
「あゝ!あたしはたうとうお前の口に*口づけしたよ、
カナーン、お前の口に口づけしたよ。
お前の唇はにがい味がする。
血の味なのかい、これは?・・・・・・
いゝえ、さうではなうて、たぶんそれは恋の味なのだよ。(略)」

うーん、翻訳だから、そう思えるのかも知れないが、
もっと可愛いらしくあって欲しい。
この翻訳を読むと蓮っ葉なイメージしか浮かんでこない。
私にとって、サロメのイメージは、可愛い、美しい、
だから男を虜にする・・・。

日本語は人物の言葉使いで、どんな人物なのかを有る程度、
推測出来る様になっている。
小説等では、人物を表す記号(役割語)になっている。


~じゃ=老人
(語尾に)~わ=女。
アタイ=蓮っ葉、不良娘。
~しただ。(オラはそこでUFOを見た等・・・)=田舎者。
他に、TV等で見るオカマキャラは、大抵は女言葉を使う・・・。
この様に、日本語では(人物を推測出来る)
或いは表す様になっているが、外国ではどうなのだろうか?
(やはり使用する言葉の選択や発音なのだろうか?)
英語圏では?
フランス語圏では?
ドイツ語圏では?
これはいつも疑問に思う事である。
これは日本語だけの特徴なのであろうか。

近年、退廃的図柄は食傷気味である。
退廃よりも男の五感をモロに刺激する様なエロスを好む。
一言で言えば、肉感であり、豊満である。

*キスは情交よりも甘美かも知れない。
いや、きっとそうに違いない。

最後の絵は
Titian画『Salome with the Head of John the Baptist』(1515)
Pierre Bonnaud画『Salome』(1865)