シベリア抑留1200日
ラーゲリ収容記
小松茂朗著
392ページ
2023年1月21日第一刷発行
光人社NF文庫
俺は生きる。「ダモイ(帰国)」の日まで
マイナス40度の酷寒と重労働と飢餓に耐え、
愛する家族を思い、故郷の山河を夢見て生き抜いた
元日本兵の苛酷な日々。
凍土に斃れた戦友たちの墓碑銘。
(本書紹介文より抜粋)
本書は392ページの本だが読みやすくまた判りやすく
書かれ、盛ったのもあるかもしれないにしても
とても面白く興味深く書かれている。
著者は甲幹の見習い士官、座金がついていて
曹長云々とあるので曹長以上なのだろう。
少尉ではないような記述。
予備士官学校でロシア語を習ったのでロシア語の初歩は判るようだ。
軍隊のこのような記録、またはシベリア抑留の記録では女との絡みや
色恋が書かれたのは多くないが著者の記録は女絡みが多い。
著者は満州で白系ロシア人のマリアに助けられる。
著者は1年以上女の身体に触れてないもんだから
23歳の大柄のマリアを押し倒そうとする場面が序盤にある。
マリアには拒否されるが、軍隊の癖でマリアにビンタしてしまう。
そこまで書いてある。
ソ連兵が略奪強姦殺人をしていてそれから逃げるために男装している
日本の婦女子と出会い、敗戦を著者は知る。(著者=小松と表記)
そこでソ連兵に殺されるから楽にしてという老婆を締め殺したり、
母親がわが子を殺したという話を日本人妻の愛子から小松は聞く。
ソ連兵の慰安婦にされるから陸軍病院の看護婦の青酸カリの
集団自決の話などが書かれている。
モンゴル出身のソ連兵は電気も知らずタバコに火をつけようと
電球にタバコを押し当てタバコに火がつくのを待っているとか
ソ連兵は時計を略奪し両手に腕時計を何個もつけている話や貨車で
日本婦女子を強姦したソ連兵を小松がシャベルで殴った話など。
仲がいい中尉から将校は皆逃げる、着替えも引き上げ列車も確保してある
お前も一緒に逃げないかと小松は誘われる。中尉はシベリア抑留させる気だ、
帰す気なんてないというが小松は部下もいるんで部下を捨てて
逃げるわけにはいかないと言い断る。
小松はそこで以前入院していた時とても親しかった、22歳の看護婦の
清水江里子と会う。清水はソ連兵に狙われないように男装している。
ただの親しいさだけですまないような記述がある。(男女の関係を匂わすような)
ソ連兵が時計が壊れたと言い、腕時計のねじ巻きを知らない話も出てくる。
シベリアへ抑留されていたとき、小松はロシア語が出来るために
ソ連側と親しくなり、特に収容所にいる、ソ連兵士の妻や娘などを
味方につけることが出来て、トラブルが起き、その責任をとるために
小松が軍法会議にかけられ死刑になってしまうかもという時、
そのソ連側の女たちが親身になってくれ、軍法会議を回避することが出来た。
その際小松は営倉に入れられるが、ソ連側の女たちが営倉の壁をぶちぬき
好きなときに高級タバコや高級パンを持って小松に会いにきてくれる。
その中でも18歳か19歳のソ連中尉の娘アンに小松は好かれる。
アンが初めて接した若い男が小松らしく、アンは親しい女3人に相談し
小松をなんとか助けてほしいとソ連側を説得した。
帰国前には身体検査がある。それより帰国者が決まるらしく
小松はロシア語を駆使して身体検査担当の30歳弱のソ連の美人女医相手に
あなたのような美しい女性はとてもこの世のものとは思われないとかの
小松の言葉を借りればおべんちゃらを言い、女医に「ハラショーダモイ」と
言われ、ケツを叩かれ、帰国が決定した。
中尉の娘のアンとその女医は親しいらしく女医は昨日アンの家に泊まったのよ
と小松に告げる。
小松はこの時、アンとの最後に別れのとき、アンが言った。
「短気をおこしちゃ駄目よ、なんとかなるからね」という言葉を思い出した。
だから小松はソ連の女たちの根回しで最初から帰国は決定していたのだろう。
小松は母から出征のときに、ここが一番のときに使えと渡された
隠し持っていたダイヤの指輪を女医にあげて、大学の同期の兵士が
死ぬときに帰国したら好きな娘に渡してくれと言われていた、
金の指輪をアンに渡してと女医に渡す。
小松が故郷の駅についたのは昭和23年大晦日の夜だった。
シベリア抑留記は無数とも言えるほどあるが、著者の小松が経験したのは
シベリア抑留者の中でも恵まれた方だと思う。