エロチカ 安田義章編 「伊藤晴雨 完全復刻版:幻の秘画帖」

伊藤晴雨:幻の秘画帖
(江戸を読む 別巻)
伊藤晴雨[画]
安田義章
166ページ
1997年
二見書房

この本にはなんと目次がない。
安田義章が監修しており、
論語通解』について団鬼六が書き、
伊藤晴雨について高橋鐡が書き、
巻末に作家佐野文哉が『論語通解』
にみる晴雨の美学という表題で書いている。

私はまだ伊藤晴雨は調べ尽くしてはおらず
伊藤晴雨の絵も著作にもすべて目を通してないので
本書はとても珍しく思え、絵を堪能し楽しめた。
楽しめたと言っても私はSMという性癖は持ってない。
伊藤晴雨の責めや縛りはもう様式美だなと思う。

本書に載っている絵の中で絵巻「地獄の女」(カラー)には目を見張った。
(むちむちな肉感的な女達が責められ続ける物語)
巻頭に安田義章伊藤晴雨自画自賛したと書いているように
本書に収められた絵巻「地獄の女」はその絵も文章も物語も
見事な傑作だと思う。伊藤晴雨琳派の流れをくむ野沢提雨に
弟子入りしただけはあり、見事な日本画を描く。
論語通解』に関しては特に私は感想らしい感想もない。
それよりも晴雨秘画帖(歴史絵巻)という歴史上の著名人が
まぐわいする日本画の方が発想が素晴らしく感じた。
それにまぐわいの日本画はとても新鮮。
伊藤晴雨の師匠の野沢提雨も春画を描いている。

他には美人乱舞が白黒画像だが巻末に少し載っており
また女體の縛り方十五種が図有りで載っている。
また高橋鐡が(藤島武二伊藤晴雨竹久夢二
モデルをした)佐々木カネヨについても書いている。

本書79ページから80ページの抜粋。

「この初婚中、三年間もモデル兼イロ女にしていたのが、「嘘つきお兼」である。
秋田美人で、山口蓬春や藤島武二のような巨匠も舌を巻くほど山田順子そっくり
なタイプの容貌、しかも「凄え」淫婦だったという。
(略)
男としても「責め」の画家としても腕を磨かせてくれたこの名モデルのことは、
晴雨も内心、よほど悔しかったらしい。私にも時々漏らしたものである。
「女ッてえものの心理まで観察しつくしたんだから、夢二君に寝取られましても、
まあ、滓みたいなもんでございますよ。そう諦めますれば、くやしくもありません
でした」などと。」(原文ママ)

伊藤晴雨
https://taisho-g.com/men/view/32

お葉(竹久夢二伊藤晴雨藤島武二らの絵のモデル。
夢二や晴雨とは愛人関係でもあった)
https://taisho-g.com/photos/view/7

お葉
https://pione1.hatenablog.com/entry/2019/09/05/103409

佐々木カネヨは12歳の時に伊藤晴雨のモデル兼愛人になったそうだが
もう佐々木カネヨは身も心も女そのものであったのだろう。
女の性欲は灰になるまでとは言うが、女になる時期も早いのだろう。
(川端康成の恋愛遍歴や石川啄木のローマ字日記に書かれているように)

高橋鐡は文章の最後にこう書いている。
本書90ページからの抜粋。

「死の一ト月前、病床を訪ねた私に、「女ッてものはだまして使うもので
ござんすよ」と囁いた言葉も忘れられない。」(原文ママ)

(*なお本書は造本が悪く簡単に背割れする)