敗戦の象徴歌 並木路子 『リンゴの唄』(1945)

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日本敗戦直後の映像のBGMとして使われる定番の歌であるが
そもそもはGHQ連合国軍総司令部)の検閲を通った第1号映画の映画
そよかぜ」の主題歌である。(”今は”YOUTUBEで見る事が出来る)
そよかぜ」の主演女優は撮影当時23歳の並木路子であり、
彼女が劇中で歌うのが、この『リンゴの唄』である。
前奏、間奏とも今とは全く違い、時代がかった戦前そのものである。
(今の芸能界はハーフ顔が多いが)並木路子は日本的で古風な顔立ち。
いかにも松竹少女歌劇団らしい。
本映画には、今となっては死語と化した女言葉が健在である。
みち(並木路子)「そんなに心配した?ごめんなさい。だって、わたし・・・」
横山(佐野周二)「ううん、もういいよ」
みち(並木路子)「わたし、勉強するわ。歌って歌って、歌い抜くの」
女言葉の消滅は、私の記憶では昭和50年頃から顕著となったと思う。
女言葉は、今となっては完全に失われた。
今でも使っているのは、最低でも60歳以上のご婦人ばかり。
しかし男の言葉使い(それに髪型、服装)は
変化は殆ど無いといっても過言ではない。
それに、昔の映像に出てくる人の話し方だが、
今の様な早口は見られない。
全部がそうだとは言い切れないにしても
昔の方が話し方がゆっくり、おっとりしている様に感じる。
映画でもそうだが、それは映画だから、聴きやすい為なのか、
それとも、昔の話し方は今よりもゆっくりであったのか・・・。
何にしても、今とはまるで違う世界が広がっている。

この映画は制作側が思ったよりもヒットしなかったと言われている。
それは当然だ。敗戦直後、映画なんていう娯楽を、
生きていく為に必要でないものを、わざわざ金を出しまで見に行く余裕が
ある者はそう多くないだろう。
金銭的にも精神的にも余裕が無くては映画なんて見ることは出来ない。
多くの日本人は戦争によって、いろんなものを失った。
家族が死に、友人が死に、家は無く、食べ物も無く、
何もかも戦争で失った者にとっては、映画どころではない。
映画よりも(映画を見る金があったならば)まず食料を買うだろう。
映画を見なくても死ぬことはないが、人間は食べなくては死ぬ。